高度経済成長と財政再建の一般理論の構想

宮下海渡

2022年11月02日

 


「高度成長と財政再建の一般理論の構想

あるいは政府支出の効果を確実にし、必要な経済政策支出を97%程度削減し、乗数効果を33倍にする制度について」

 


要約

民間の決済アプリ事業者に“無金利”の後払い決済アプリを提供させ、借り手の債務は“1%帳消し”させる。

政府もしくは地方自治体は、決済が使われた際に金利および債務の1%帳消しの代わりに貸し手の決済アプリ事業者に決済額の3%(もう少し多くても可)を給付

民間の企業・消費者は支出額の1%が帳消しになるため、積極的に買い溜め・投資をするのが合理的

民間の消費と投資とマネーが増えるためGDPが伸びる。例えば企業の借入支出を200兆円発生させれば、その受取手もある程度支出をするため(乗数効果)、GDPは600兆円程度に経済成長する。しかし200兆円の民間支出を発生させるために必要な政府支出は200兆円の3%の6兆円のため、自動的に財政再建する。

 

 

 

 

 

 

 


1.制度の運用の基本モデル

  人々や企業が後払いで支出→銀行が無金利で建て替え→銀行は金利の代わりに行政から決済額の2%を受け取る→借り手の債務も政府から決済額の1%をもらって1%帳消し…という流れ。

 


  現在日本は慢性的な需要不足であり、こうした状況においては、利用者や支出先の制限を設けず、例えば30兆円を上限として無金利・債務の1%帳消し決済を利用させる。その後は企業の供給力拡大投資を対象することでインフレを抑制しつつ民間の投資増→所得増→消費増を実現する。

 


制度を利用したいがために、通常の金融での借入が減るクラウディングアウトは防ぐ必要がある。決済利用希望者向けフォームに希望額や情報などを登録させ、その後、利用希望総額が上限額に達したら利用枠の提供は停止する。キャンセル分の振り分けはなるべく既に利用が決定しているユーザーに対して行えば良い。もしくは額は必ずしも確定しなくても、枠の提供は事前に確約して応募を締め切る形をとる。

 


企業からすれば、この決済アプリの利用ができなくても、景気が浮揚しているならその期間に通常の金融で融資を受け投資をするのは合理的。クラウディングアウトは起こりにくい。景気が拡大すれば銀行が獲得する案件も結局増えるのでメリットがデメリットを大きく上回る。

 


短期間に莫大な支出が発生するとインフレが昂進するため、利用希望の募集期間は例えば4ヶ月程度として、総量規制のように一日あたりの融資は一定の範囲に抑制し一年をかけてなだらかに利用される形にする。

 


2.収支黒字化の条件

仮に新規の借入支出を200兆円発生させると乗数効果や通常の金融での借入発生などでGDPが600兆円程度になるとして、200兆円を発生させるために必要な政府支出は3%の6兆円から5%の10兆円程度。これを上回る税収増があるなら採算がとれる。

 


  元日銀副総裁で経済学者の岩田規久男氏の試算では、名目GDPが1%増えると税収は2.67%増える。(出典…責任ある積極財政を推進する議員連盟での岩田規久男氏の講義図表15)

 


この税収弾性値に基づいて計算すると、現在の日本の国税税収は60兆円なので、GDPが600兆円(11%の伸び)での税収の伸びは17兆6220億円(60兆×2.67%×11)となる。

 


つまり、収支黒字化、痛み無き財政再建が容易。

 

 

 

  3.地方の経済政策としての可能性

  その地域での例年の借入総額を少し増やす形で、「その地域でしか使えない無金利・債務1%帳消し後払い決済」を民間に提供させれば、地方での効果的な景気浮揚対策としても機能する。

 


例えば、アプリで払われた利益を地域外に出金する場合に、低率の手数料をかけ、一部を行政に戻させる形を取れば、住民税や事業税の増収分に加えた歳入となるので、採算はとりやすい。

 


ただし、極端に多額の借入を集中的に発生させるとインフレが昂進するので、国が統一的なルールを設けるのが望ましい。A県B市C区で後払い決済が使われた場合、その金利分と債務1%帳消しコストはA県とB市とC区で分担する。例えば固定資産税は市町村税なので、不動産が後払い決済で購入された場合は市町村のコスト負担を増やすというような形。

 

 

 

4.その他要点や予測など

・消費や投資を恣意的に伸ばせるので名目成長が容易。成長が鈍化した際に制度を再開すれば、理論上、高度成長を長期的に継続できる。

 


・消費や投資が増え景気が浮揚するので転職や起業難易度が下がる。イノベーションや生産性向上が起こりやすい。

 


ゾンビ企業対策のため、決済の提供に条件を設けたり、借金返済等には充てられなくすれば良い。

 


・インフレが昂進しやすいので、債務と金利の帳消し分は必要に応じて縮小。実質金利が低い場合は、需給ギャップに応じて消費サイドへの決済の提供を行うことを公約した上で、通常の低金利政策で問題ないと思われる。

 


・決済額の数%は必ず回収できるので低コストで運用しやすい。担保か大きな与信があるユーザー以外には、短期間で返済させることでコストを抑制できる。

 


・実際の債務帳消し率等を民間事業者に決定させるなら競争も起こる。

 


・マイナス金利とは違い民間銀行の経営を圧迫しにくいため、預金金利やサービスの低下を招きにくい。

 


・過度な決済キャンセルにはキャンセル料をかけ、決済枠の不正確保を防止。

 


流動性の罠が解決。

 


・一般のユーザーから見れば「使った額の1%がチャラになるお得な後払い決済」という簡単な仕組み。予算さえつけてくれれば後は事業参加を望む事業者に任せる形で実現できるので政策実現しやすい。

 


・公共事業とは違い、発生する支出は民間の自由な支出なので、クラウディングアウトが起こりにくい。

 


・民間支出が発生した時にしか政府支出が発生しないので政府支出の効果が確実。

 


・ほぼ必ずGDP・所得・税収が伸び財政再建する。

 


・支払い額の1%が帳消しになるので、将来、この決済アプリを使わずに支出をする方が基本的に価格が高い。実質的に、事業開始時点でデフレ脱却達成。人々の期待を変える必要が無い。

 


・将来的な大規模減税が可能。

 


・個人的には、経済成長の確度が高い点、低コストな点でベーシックインカムMMTの上位互換だと考えている。